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『中動態の世界』が売れてる?!

2018.01.15

『中動態の世界』が売れてる?!

 

 

先日、以下のようなやりとりがあった。

 

知人:「ちょっと面白そうな本があるのですが、図書館に行ったら40人待ちなんですよ。」

 

私:「へ〜!なんて云う本ですか?」

 

知人:「『中動態の世界』っていうタイトルです。」

 

私:「あー、それなら持っていますよ。あれはいいですね。お貸ししますよ。」

 

知人:「ほんとですか?やった!お願いしま〜す。」

 

2017 医学書院刊、

國分功一郎著、『中動態の世界   意志と責任の考古学』

 

 

至極真っ当な日常生活を営む市民が「中動態」という言葉に出会う確率は、ほぼゼロに等しいであろう。

 

 

にもかかわらず、この本が図書館で40人待ちというのは天変地異の前触れか、そうでないなら何らかの奇異なる現象に起因する一過性の帰結か、または影響力のある人物が書評などで高評価を与えていたのであろう。

 

 

『中動態の世界』は、とても読みやすい本なので、是非購入してじっくり読まれることをお勧めします。ここでは、馴染みの薄い「中動態」という言葉に焦点を絞って眺めていこう。

 

 

 

 

さて「中動態」とは一体何なのか?

私たちが英語を学ぶとき、「能動態」「受動態」という言葉に直面する。英語の先生が、英文法で「中動態」を教えることは基本的にないが「中動態」とは、「能動態」と「受動態」の中間のものと考えておけば良い。日本語で表記される場合には、「中間態」と表記されることが多いが、どちらも同じものを指す。

 

 

以前、クリストファ・バーナードが『日本人の知らない英文法』の中で英語の中間態を紹介していたことがある。中間態の定義は、難しい。数ある定義の一つとして以下を考えてみよう。クリストファによる中間態の定義は、「ある他動詞を自動詞として用いて、他動詞として用いたときの目的語を、主語にすることができる。この条件を満たす場合、その動詞は中間態と呼ばれます。」としている。以下、具体例。

 

 

I closed the door. [能動態]

The door was closed by me. [受動態]

The door closed. [中間態]

 

 

日本語では、「閉める」「閉められる」「閉まる」の分類である。

 

 

 

 

中間態的な表現は、英語でも日本語でも様々ある。

私が面白いと思うのは「知覚」に関する表現である。今回は、その中でも「視覚」について中間態的な表現を眺めてみよう。

取り上げる動詞は、lookとappearとshow。それぞれ例文は、2つ用意されている。

 

◎ look

You look ・・・

 

You look ・までの表現では、「あなたが見る」のか「あなたが〜見える」のか分からない。つまり主体なのか客体なのかは次の一言に依存する。

 

 

You look at that big cat. (あなたは、自分の目を使って見る) :能動態

You look tired. (あなたは、人の目によって見られて、人によって状態を判断されている):中間態

  

 

appear

He appears wise. (人に見られ、判断される):中間態

He appeared a few minutes before the end of the party. (彼が「現れた」のは、人に見られ確認されたからだが、「現れた」は「登場した」であり主体的行為にも思える):中間態

 

 

show

You need to show your student ID here. (自分が、目的語であるものを見せる):能動態

He didnt show up until the party was nearly over. (自分自身の姿を見せて、現れる、登場する):中間態

 

 

 

 

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以下、自分が今までに見てきた言語の中で「中間態」が態として存在して文法書の中で扱われる言語。これらの古典語においては、動詞の態はその語尾に現れる。しばしば中間態と受動態の区別は峻別できない場合がある。

 

 

 

 

古典ギリシャ語

ラテン語(かつて中間態が存在していた痕跡は形式所相動詞(デポーネント)に表れている)

サンスクリット後

ヒッタイト語